カフェ・サンライズ
ここ数年,毎年年末にインドのプネーを訪れている.この街は,インド人の辭を借りれば,「インドのオックスフォード」なんだそうだ.インドでも一流レベルのPune Universityを中心として,街には,CollegeやPolytechnical schoolが散らばっている.学生や研究者の数も多く,知的レベルは高い.Bandarkar Road, Bapad Roadなど有名な学者の名を冠した街路 もたくさんある.
知的なレベルが高いと,料理も美味しくなる.Ferguson College RoadのRoopaliのターリーやM. G. Roadの筋違いにあるGeorge Restaurantのタンドール料理は絶品である.
ちかごろ成長著しいインドの中でも,silicon valleyを気取るこの街は,IT産業の勢いに乗って,特に変化が激しい.行く度にビルが修復され,店の構えや看板は新しくなっている.知的レベルの高さが手伝って,そのスタイルはお洒落なものである.
昨年の12月に訪れた時,J. M. Roadの端,Cityの手前のバスターミナル付近に新しいカフェを見つけた.その名をCafé Sunriseという.何となく1950-60年代のモダンジャズ隆盛の時代のカフェを思わせるその作りは,懐かしくもあり,しかし今では新鮮でもあった.雑然として散漫でありながら,全体を見れば,なにがしの統一性を持っているように思える,不思議なプネーの町並み.意図があるのか無いのか分からない未分明な世界に,この時空の定まらない空間はよくフィットしている.単純な時間軸や空間論の成り立たないこの街で,このカフェの椅子に座って,苦くて甘いコーヒーを楽しむ時間は心地よいものだった.
2005年12月26日.スマトラ島沖に発生した地震は,大津波を引起し,歴史上類を見ないほどの大被害を周辺地域にもたらした.インドでも,タミールナドゥやアーンドラプラデーシュあたりで,大きな被害が出て,多くの方が犠牲になった.
この地震と津波のことを,わたしは,翌朝,新聞を読むまで知らなかった.その夜,わたしは友人と街に食事に出かけ,久しぶりにビールを飲んだ.Ferguson Collegeの向かいにあるAkash Plaza Sunson HotelのRestaurantで,美味しいnon-vegetarian 料理を食べて,良い気分になっていた.街もまた,どなたかの神様のプージャの日で,祠の周りに電飾が施されて,遅い時間まで参拝者がひっきりなく訪れ,プージャを終えて安心した家族は,やはり街のレストランで食事を楽しんでいた.
プネーは,被害のあった海岸とは反対側の西部にあるし,街そのものも標高の高い所にある.揺れが来たわけでもなかったし,まさかインドにそうした災害があろうとは予想だにしていなかった.翌朝お会いしたPune UniversityのDepertment of SanskritのDr. Shailaja Bapat(専門はVedanta哲学)も,驚きを隠さなかった.彼女は,自分の生涯はおろか,歴史的にもこうした被害を知らない,という.決して無いわけではなく,2〜300年に一度位はこれに類する被害はあったようだが,これほどの被害は見当たらないようだ.TSUNAMIという言葉自体が日本語をそのまま流用しているほど,彼らの潜在印象の経験値は低い.
Dr. Shailaja Bapatは「そういえば…..」といって,記憶をたどるようにうつむくと,「Mahabharataのどこかにこれに類する事件の記述がある.それは伝説的な物語に過ぎないと思っていた」と,いつものように小さな声でつぶやいた.ここではLegend(伝説)さえも時空を越えて,現実となるのである.
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